【連載コラム】中国問題

連載コラム『日本国滅びの美学』5

潜在する『熱』×作られた『熱』

さて、いま中国でデモ行進を行っている学生連中には実は少し特殊な事情がある。

共産党独裁下の貧富の格差問題にまで口を出し始めるとキリがないのでここで詳しく熱く語るのは割愛するが、その多くがいわゆる『アリ族』と呼ばれる人たちで、簡単に言えば、中国の共産主義体制下で最も不遇な人生を送っている、しかしながら都会でいつか一旗挙げたいという野望を持った連中であるという『今回のデモに関わるはっきりとした理由と特性』を有している人々なのだ。

これと比較して思い出されるのが、『天安門事件』【7】 のときの中国青年。憂国の士は、このときほぼ殺され、よくても投獄に遭って今も半死状態で幽閉されている。

本当の自由と民主主義を求めた学生たちが熱い戦いを繰り広げた。国を憂い、これからの生活を憂い、立ち上がった『自らの意思による』=『本当の戦い』だった。

あきらかに陽動されて、コントロールされて、なんとなく始めちゃった的なデモとは雲泥の差があるのである。

今回のデモはなんともないので、適当に相手をして共産党の支配力の及ぶ範囲で暴発しない程度にやらせる。その一方、天安門事件は危険なので、軍隊(人民解放軍)を投入し、有無を言わせず制圧して大量に虐殺し闇に葬る。そして、それは共産党の政策によって、強引にもみ消され、中国の歴史から消え去ろうとしている。

今でも天安門に学生が2−3人集まって民主主義を叫ぶだけで、警官だけでなく軍隊まで出てくるような騒ぎになる、と言われている。いや、首謀者がはっきりしているなら、取調べもせず即射殺もあるだろう。それほどに中国共産党はこういった反抗にはナイーブな反応を示す。

それがあの規模のデモを本気で鎮圧しないのは、あの学生たちが巧みに『煽られ捏造された熱』にほだされて、いつの間にか『反日を口実』に、ガス抜きをさせられているからだ。

鎮圧することも簡単。しかし、ガス抜きにやらせる。しかし、北京などの中心地でやられているようでは中国共産党が舐められる。だから地方だけ見逃す。いや、むしろ地方で起こるように世論をコントロールする。

まさに政府の手のひらの上で踊っている状態。

また、今回のデモの中心になっているのはいわゆるアリ族で、就職できないままに都心部に住むこともできず、郊外にシェアハウスするなどして生活をしている準就職浪人、または失業者の集まりなのだから、デモが都市圏ではなく郊外で起こるのも必然といえる。

都市部の富裕階層は子供を大学に通わせ、高給の就職先は彼らが抑える。大卒でない田舎出身のアリ族は、日本円で平均月収2万円程度といわれているが、それでも田舎で働くよりは倍以上の稼ぎになるし、いつか都会で一旗挙げてやるという野望もある。強い富裕階層へのあこがれである。

まさに貧富の格差、就職失業問題が生んだデモは、実は中国共産党の政策のおろかさや矛盾を堂々と世界にアピールしているのである。




【7】

天安門事件 1976年と1989年に起こった天安門広場での一連の民主化運動とそれに対する人民解放軍の一方的な弾圧と虐殺があった事件を指す。中国国民はいまだこの事件を知らない人がほとんどで、完全に情報が統制されている。主に天安門事件という場合に指すのは198964日に起こった六四天安門事件のほうである。共産党の指導者でありながらも、その反対派の意見に一定の理解を示していた胡耀邦氏の死を悼んで集まった一般市民を人民解放軍が強引に天安門から撤去しようとして、軍隊と戦車部隊を投入。中国共産党は犠牲者319人と発表しているが、実際には数千人規模の犠牲者が出ている。これをきっかけに運動は上海をはじめとする中国全土に拡大し、この間に訪中したゴルバチョフ大統領と趙紫陽総書記との会談もあって、中国共産党の情報統制や戒厳令も行き届かず、ついに世界中に報道されることとなった。

これによって中国は一気に中国共産党による閉鎖的政治を加速させ、今に至っている。

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