【連載コラム】中国問題

連載コラム『日本国滅びの美学』2

中国という国

ちまたでは尖閣諸島の問題が大きくクローズアップされ、日本では反中国の論戦がネット上で激しく戦わされ、中国では反日のデモが起こっている(平成22年10月4日現在)。日本のマスコミはこれを華麗にスルーしてクローズアップしなかった、とされるが、この情報化社会である。多くの日本人がこのときすでに反日のデモを知っていた。日本国旗が焼かれ、切り裂かれ、『死』と赤く血塗られた過激さが相変わらず鮮烈だ。

それから二週間ほど経っても、いまだ治まらないこのデモはとうとう当局の予想の範囲を超えて拡大し、とうとう日本のマスコミも報道せざるを得ない状況になり、地元の日本企業、とくに直接一般の中国人にモノを売るイトーヨーカドーなどへの被害も心配されている。

しかし、私は思う。『中国憎し』で始まるはずのこの問題が、不思議の自分の中で『反中国感情』として入ってこないのだ。
むしろ、その怒りに似た激情はどちらかといえば、韓国が違法に軍事力にモノを言わせて領土侵犯した『竹島』の事件のほうにこそ強く残っていて、今回はそのときほどの怒りは感じないのが不思議である。反韓国の感情は芽生えるのに、反中国の感情は芽生えない。

今回の事件でも中国では『日本人は弱いものをくじき、強いものに媚を売る』と揶揄されたりもしたが、それとも違うように思う。それではこの感情の矛盾は何なのか。

それは、竹島の問題が比較的『韓国国民の民意』であり、比較的【2】正常な教育 と報道の元に行われた行為であったことに対して、尖閣諸島の問題は『中国国民の民意ではなく』、異常な教育と情報操作によって行われた行為であった、いわば『操作洗脳された民意』によって行われた行為だからだろうと考えている。

中国の国民が望んでそれを行っているのではなく、しかも反日運動の根底にある日本人への怒りが『完全な誤解と捏造』によるものだということを知っているからこそ、反『中国人』という怒りを私は持てないのだ。ドラマや映画に出てくる悪役をいくら『憎い』『許せない』と思っても、それを演じている俳優自身に直接憎さを抱いて、その男優を刺しにいく人間はまさかいないだろう。

民主党の枝野副幹事長をはじめとする日本の政治家が次々と反中発言を繰り返している。『悪しき隣人』だと。彼らは『ヤクザ』なんだと。確かにそうだ。しかし、その矛先が向けられるべき主体は『中国人』ではない。あくまで中国共産党一党独裁体制である中国という『国』のあり方、『体制』に向けられるべきものである。

もちろん、この中国共産党一党独裁、というのは必要があって生まれたものであることは言うまでもない。
長い歴史の中で、絶えず強者が蹂躙し、強引な支配を繰り返してきた国が中国である。世界でも有数の国民の数と民族の数、宗教の数を有する至上まれに見る特異な国家。
中国国民はその時代や王朝、政府の変化とともに強引な宗旨替えを迫られ、そのひずみが不満を呼んでまた反乱と混沌を呼び起こす。そしてまたそこに『英雄』が現れて強引で専制的な支配を繰り返す。

その繰り返しの中で、最終形態として生まれたのが、一党独裁という強権を発動し、情報をコントロールし、内政の矛盾をごまかしつつ支配層の利権を獲得するために外交を利用し、外敵を作って国民の目を外に向けさせるという政治システムだ。

これは中国という広大な領土を支配する上では、実にいたしかたない、そして唯一絶対とも言える方法なのであって、いまの中国がまとまっている(ようにみえる)のは、共産党のこの強引な政治手法だからこそ可能にできている荒業なのである。

もし中国がこれを放棄するのであれば、アメリカのように州の共同体のような形式で民族や地域ごとに自治区を設定することになるだろうが、恐らくこれはうまくいかない。
ならば、各地で独立を認めて、それが軍事経済的同盟を組んだ、国家複合体のような形を取ることも考えられるが、これもうまくいかない。

やはり、中国の世論や政治を代表する特権階級は、それを守るためにどうしても今の国家の体(てい)を維持しないといけないのだ。そこに中国の持つ、日本には絶対にない『哀しみ』がある。
自分たちの中では解決できないから、外敵を作ってそこに怒りの矛先を向ける。自分たちの政治体制が矛盾しているから、無理やり情報を統制して、嘘と捏造と情報遮断を積み重ねていかなければならない。そこに哀しみとむなしさと同情を感じるのは私だけではないはずだ。
そこからも、この問題に向き合うときに、我々日本国民は単純に中国に『憎悪』をぶつけて済ませるような問題ではないことも、すでに賢明な日本国民であれば気付いているはずだ。



【2】比較的、とここで述べたのは、当然のことながら、韓国の戦後教育は『反日色』で染まっているからである。しかし、韓国ではネットから戦時史料まで様々な場所・方法でその気になれば『真実』を目にすることが可能で、完全に情報を捏造・遮断されている中国国民とはかなり事情が異なっている。さらに現在のように韓国経済が順調に成長している過程では、外敵を作る必要もないので、自然と反日の色が薄くなっていくのが韓国外交の特徴である。

コラムトップへバック
Dr.K愛のサイトへバック